創作

イラストにおける「正しい努力」の道標

ダテナオト著 「考え方で絵は変わる」を読みましたので、感想書きたいと思います。
まず先に要点だけ述べたいと思います。

全絵描きがぶつかる様々な悩みの解決法が紹介され、「挫折」を防ぐ聖書

挫折を味わった絵描きでなければ良さがわからない凡書

この矛盾した内容を持つ本と感じました。

 

 

絵描きを目指す者が最初に感じる疑問


どうすれば絵が上手くなれるのか?

 

最初に感じる疑問である事でしょう。(ごく一部の天才を除く)
そしてネットや本で調べる事になります。調べるのは大体こんなものではないでしょうか?

・美大に行かないと駄目か?
・デッサンは必要?
・美術解剖図を勉強するべき?
・ポーズマニアックスは有効?(○○練習法は効果ある?)
・量をこなすべき?質を重視すべき?

どれをとっても「人による」「必須ではない」などのぼんやりした回答しか得られません。
そして、下記の便利な言葉に収束します。

たくさん描くしかない

 

絵の練習の失敗例

唐突ですが、私の知人3名の行動を紹介します。

A. 毎日好きな絵の模写をしている
B.  人体を描けるようになる為に、毎日クロッキーカフェ(動画)で練習
(ポーズマニアックスの場合もあり)
C. たくさんの練習ラフを毎日描いている

1年後、聞いてみました。「それで上達したの?」と。
各個人の言い分を聞きながら、以前の絵と見比べてみました。

 

・・・線は綺麗になったなぁとしか感じませんでした。

絵を描いている人ならどれか経験はないでしょうか?なんとなく駄目だというのはわかると思います。しかしそれを「理論的に言語化」して人に説明するのは難しいのではないでしょうか?本書ではそれがわかりやすく説明されているのです。

それが本書を「挫折」を防ぐ聖書と評価した理由です。

 

最初の一冊目には向かない理由


どうすれば絵が「早く・簡単に」上手くなれるのか?

実際の所、皆の本音はこれではないでしょうか?

本書が発売し、その内容に感動し、Amazonレビューも大絶賛の嵐だろうなと思いながら見てみたら、最初の一つ目のレビューは次のようなものでした。

内容としては「描き方」ではなく「こう考えると違った見え方ができる」とか、こう考えるよりも、こう思った方が良いとか。絵を描くにあたっての「思考論」を解説しており、テクニカルな部分はほとんど紹介されていないですね。

参照: Amazon最初のレビュー 評価★2 より

正しい努力をしなければ、効果は出ません。なんでも描けば上達するほど絵は単純ではありません。前項で紹介した3名は今も現在進行形で同じことを繰り返しています。

「努力のやり方を間違えない」

これは本当に、本当に大切な事なのですが、残念ながら人はまず最初に「早く・簡単に」を先に求めます。挫折した経験が無いとその大切さを理解するのは難しいですね。

 

デッサン必要論への回答

ここで一番感銘を受けた記事だけ紹介したいと思います。

それは

項目10.デッサン、模写、クロッキーどれを練習すればいいですか?

です。

ネット上で今も続き、結局曖昧なままになっている「デッサンはイラスト上達に必要か否か?」に言語化による回答を出しています。

デッサン

人体の100%の情報を学ぶ方法
描く技術を高める訓練ではない
「観察力」を鍛える訓練

模写

先人(クリエイター)の知恵を知る行為
100%の情報から、「何を捨て、何を残したか?」を理解する
「2次元の嘘」「デフォルメ技術」の知識を学ぶ行為

クロッキー

描く速度を速くする練習
特徴を素早く観察して、シルエットで捉える技術
デッサン力を先に身につけないと効果は薄い

デッサンの説明が少し弱いなと感じましたが、模写とクロッキーの説明は全面的に同意するところです。クロッキーカフェやポーズマニアックスをする人達が何故上達しないのかという疑問はようやく氷解しました。

本書では解説されていませんが、模写やオリジナルによってるもデッサン力が「ある程度」上昇します。それが、デッサン必要論の回答を難しくしているところです。

その辺については、別の名著「絵はすぐに上手くならない」で紹介されています。こちらも絵の上達における「思考」に触れた本です。無駄な練習で数年を棒に振りたくない方には見て欲しいです。

模写については以前にレビューした「才能はいらない イラストで食う技術」を読むと実用的な吸収手順が紹介されていますね。

 

努力を間違えた全絵描きへ

最後に本書の表紙を振り返りたいと思います。

参照: 考え方で絵は変わる 表紙より

意図して描いたかわかりませんが、本書はこの女の子が右手に持っている「カンテラ」と感じました。手っ取り早く強くなれる魔法の杖ではありません。華やかな防具でもありません。手助けしてくれる精霊でもありません。

著者みたく、ゲームに例えると、ドラクエの序盤で「はがねのつるぎ」でもなく「てつのよろい」でもなく「たいまつ」を買うか?という話になります。

 

・・・超、地味です。
(もうすこしタイトルや絵を誇張しても良かったのではないでしょうか・・・)

 

これがゲームなら、ダンジョンで多少暗くても迷っても力業でなんとかなります。しかし現実だと数年たっても出口は見つからず、心が擦り減り息絶えます。
今後もその被害者は増えていくことと思います。
私もそんな無駄な努力で長い時間を棒に振った一人です。その負の連鎖から抜け出そうと必死にもがいているところですね。

本書が話題となっていないのが少々残念ではありますが、正しい知識を探し求める人が辿り着ける可能性が示されたのは喜ばしい事です。電子書籍化してるので絶版の心配もないでしょう。願わくば、著者の前著「イラスト解体新書」のようにロングセラーとなって欲しいものです。

 

カグラ
カグラ
あと10年早く発売して欲しかったですね