雑記

絵における才能を明文化してみた

絵における才能とは?

今回は「絵における才能を明文化する」というテーマでお話しします。

・才能論を持ち出す人間に成功者はいない
・絵において練習の質を追求する者は大成しない
・絵の練習は質よりも本番量

というのが私のこれまでの考えだったのですが、最近行き詰まりを感じていまして一回考えを見直そうと思いました。

書籍『才能の化学』

今回参考としたのは『才能の科学』という書籍です。

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少し前、「親ガチャ」という言葉が流行しました。これは「育った環境によって人生が決まる」という意味で、本来は家庭内虐待など深刻な事情を抱えた人々の人生が厳しいものになってしまう現実を指していたはずです。しかし、現在ではやや攻撃的・軽率に使われることも増えました。

さらに最近では「遺伝子論」も加わり、「努力できることそのものが才能であり、才能がない人は努力しても意味がない以前に努力そのものが出来ない」「藤井聡太や大谷翔平にはなれない」といった極端な議論も見られるようになりました。

厄介な事にこれらの意見は全てが偏見というわけではなく、現代科学に基づいた一部の真実(とされているもの)が含まれています。たとえば行動遺伝学の研究によれば、同じ親から生まれた一卵性双生児を、それぞれ裕福な家庭と貧しい家庭に養子として育てた結果、数十年後の学歴や職歴、容姿などに驚くほどの共通点が見られたというデータがあります。つまり、人生は環境よりも遺伝の影響が強いという主張です。

また、反社会的な親から生まれた子どもを裕福な家庭に養子として出しても、成長後に反社会的な行動を取る傾向があるという研究もあります。こうした話は橘玲さんの『言ってはいけない』にも書かれていますが、読後感はかなり憂鬱になるため、万人にはおすすめできません。

今回のテーマ『才能の科学』は、「すべてが遺伝で決まるわけではない」という観点からのアプローチです。

では、「絵の才能がある人」と聞いて、皆さんはどんな人物を思い浮かべるでしょうか? 同じ練習をさせても、一部の子どもは飛び抜けた成果を出す。こうした「一を聞いて十を知る」というような成長力の差が「才能」として認識されがちです。

しかし、この本を読んで私が出した結論を一言で言えば、「才能とは運である」となります。

才能とは『運』である

「運」という言葉だけでは誤解されやすいので補足します。運が良ければ、何もしなくても自動的に金メダルを取れたり、大谷翔平になれたりするという意味ではありません。

ここで言う「運」とは、以下の3つの要素に出会えることです。

  1. 一般的に知られていない効果的な練習法(努力が周囲を凌駕する運)
  2. 長時間努力する事が「可能である」環境と体力(努力が可能である運)
  3. 継続的に用意される目的ある訓練(努力が報われる運)

 

本書の著者は卓球選手なので、卓球選手の「デズモンド・ダグラス」選手の例を挙げます。「史上最速の選手」と言われた彼の反射神経は科学的なテストにて「代表選手の中で最も反射神経が鈍い」という結果が出ました。

この調査は当初、一笑に付され誰も信じませんでした。

後の調査で彼は「卓球を始めてから五年間、卓球台に密着を余儀なくされる非常に狭い部屋でスピード卓球をする。」という特殊な練習環境に身を置いていた事がわかりました。一般的な環境と違い、技や駆け引きをする余地が一切無く、スピードが全てという特殊環境に5年もいたのです。

ここで重要なのは、ダグラス選手自身は自分の成功の要因に気づいていなかったことです。たとえばイチロー選手や大谷翔平選手のインタビューでも、「自分は天才ではない。地道な努力を続けてきただけ」と語っていますが、実際には特殊な環境や練習法に偶然遭遇していた可能性が高いのです。

つまり、憧れの人物に教わっても、彼ら自身が成功の要因を自覚していない場合、再現性は低くなってしまいます。

イラスト界隈の最大の落とし穴 目的性訓練

次に「目的ある訓練」についてです。

「1万時間の法則」という言葉を聞いたことがあると思います。「1万時間努力すれば誰でもプロになれる」というものですが「一万時間の法則」の根拠とした実験を実際に行ったアンダース・エリクソン教授が、この法則を真っ向から否定しています。

例えば、あなたが10〜20年車を運転していて、1万時間以上運転していたとしても、プロドライバーのようなテクニックを持っているわけではないでしょう。それは、私たちの多くが運転を「習慣的」「自動的」に行っているからです。そうした状態では技術は向上しません。

成長するためには、自分のレベルより少し高い課題に継続的に取り組む必要があります。ゲームで例えるなら、レベル1の敵(スライム)を倒しても、確実に経験値が入ります。しかし現実では、自分より強い敵に勝たなければ、経験値は全く入りません。

ここで厄介なのは「自分のレベル」と「課題の難易度」を正確に測るのができない事、そして何より「自分より弱い敵(簡単な課題)を倒すのは楽」だということです。

イラスト界隈ではとくにこの落とし穴に堕ちている人が多い気がします。
(堕落の「堕ちる」で誤字ではないです)
①イラストレーターに憧れる
②まずは練習しよう!
③基礎練で色々なポーズをかけるようになりたい!
④模写・30秒ドローイング・クロッキーがそれっぽい
⑤○年後、何も上達していない・・・

このパターン、うんざりするほど見てきました・・・
もちろん、私のそのうちの一人ではあるのですが。これに気づいて以降、「練習より本番!」の考えで進めてきました。

絵の才能とは? まとめ

改めて、今回の話をまとめます。

絵の才能とは

  1. 正確な上達法知識
    ⇒効果的な上達法を意識的・無意識的に関わらず体得している
  1. 自分の意思で努力する事ができる(許される)環境と体力
    ⇒「クリエイターという身分への憧れ」ではなく、自発的で強い創作意欲がある
    ⇒周囲の理解があり、努力の妨害を受けない
  2. 継続的に「目的ある訓練」を用意できるセルフコーチング力
    ⇒絵の世界では独学が基本。模写・30秒ドローイングなどの反復練習で自己満足していない

どうでしょう?こうして文章化してみると、「絶対無理!」という思考から「頑張ればなんとかできるかも・・・?」と思わないでしょうか?

自分の今までの行動に心当たりがある方は今一度練習法を見直してみてください。

私も頑張ります。